常に「面白いこと」を追求していく
吉本圭(以下、吉本):
Glossomは第一に、クライアントの夢の実現や成功があってこそ、僕らのビジネスにつながっていくという考え方でおります。僕らがもっているテクノロジーやデータのケイパビリティを活用して、クライアントのビジネスをさらに伸ばし、お互いが成長できるWin-Winな関係性がベスト。ゆえに「ヤンマガWeb」が成長することで、僕らも成長できるんです。そこで改めて、鈴木さんが漫画編集者として成し遂げたい夢をお聞かせ願えますか?
鈴木一司
氏(以下、鈴木):
なるほど、夢。正直にお話すると、僕は大志を抱いてこの業界に入ったわけではありません。もちろんヒット作を生み出したい、編集長をやってみたいという小さな夢はありました。しかしその場その場で面白いことをやっていたい気持ちの方が強いんですよ。どんなときも目の前のことに一生懸命取り組む。結果としていまがあり、ずっとこの仕事を続けてこれたのだと感じています。ご質問の趣旨に添えず、恐縮なのですが......。
吉本:
とんでもない。鈴木さんの「面白い漫画をつくりたい」という熱意が、現在の『ヤングマガジン』に体現されているのですね。僕にとってはじめての『ヤングマガジン』の記憶は高校生の頃。『3×3EYES』や『代紋TAKE2』が連載されており、毎週発売を待ちわびていました。どの掲載作品にも通じる「『ヤングマガジン』らしさ」というのは、どのようにしてつくられているのですか?
鈴木:
『ヤングマガジン』には40年以上の歴史があるので、明確にお伝えするのは本当に難しいんです。ですがあえて言葉にするのなら、「多様性」になりますかね。アウトロー、SF、サスペンス、ファンタジー、ラブコメなど、『ヤングマガジン』の漫画のジャンルは非常に幅広い。面白いものをなんでも詰め込んでいくことで、『ヤングマガジン』が出来上がっています。
新しいサービスを、ともにつくりあげる
吉本:
漫画サイト全般で考えると、「ヤンマガWeb」は後発組になるかと思います。立ち上げにいたるきっかけがあったのでしょうか?
鈴木:
おっしゃる通り、発行部数の多い漫画雑誌でデジタル媒体を持っていないのは『ヤングマガジン』くらいでした。電子書籍が台頭してきた10年ほど前、「これからは既存レーベルの力は弱まり、作品単体の力が重要な時代になる」という予測がされていたんですね。しかし蓋を開けてみるとまったくの逆。レーベルの力はさらに強くなっていました。そこで僕たちは『ヤングマガジン』というブランドと改めて向き合い、『ヤングマガジン』を発信できる基地をウェブ上につくろうと考えたんです。そうして2020年に迎えた創刊40周年記念プロジェクトのひとつとして、「ヤンマガWeb」を立ち上げることになりました。

吉本:
「ヤンマガWeb」を立ち上げるにあたり、どのようなパートナーを求めていましたか?
鈴木:
「イチから一緒につくれる人たち」ですね。『ヤングマガジン』は漫画とグラビアページが同じくらいのボリュームで構成されている雑誌です。この構成は漫画雑誌のなかでも珍しいのですが、「ヤンマガWeb」の立ち上げにあたりいろいろな方に相談をしたところ、「漫画とグラビアは、それぞれ別のサイトにした方がいい」という意見ばかりでした。ですが漫画もグラビアもあるのが『ヤングマガジン』。これを分けてしまっては、『ヤングマガジン』である意味がありません。そんななか、Glossomさんは「漫画とグラビアを同じデジタル媒体で展開したい」という僕たちの希望を、前向きにとらえてくれましたよね。そのとき「Glossomさんなら一緒にやってくれる」と確信したんです。これまでにない新しいものをつくるのだから、Glossomさんのように自由な発想ができる方々と組みたかった。
吉本:
ありがとうございます。僕たちは漫画サイトに携わった経験はありませんでしたが、ゲームやエンターテイメント事業などを展開するグリーグループの一員です。そのような背景もあり、新しい取り組みに柔軟な姿勢でいられるのかもしれません。

鈴木:
Glossomさんには漫画サイトへの固定観念もありませんでした。それにより真っさらな状態から積み上げる議論ができて、本当によかったなと感じています。現在、グラビアのコンテンツは「ヤンマガWeb」の拡大にも大きく寄与しているんですよ。Glossomさんは僕らの思いを汲み取り、賛同してくれ、きちんと実現してくださったなと感謝しています。
開発からデータ分析、マーケティングまで一気通貫で提供
吉本:
Glossomでは「ヤンマガWeb」のユーザーがどのような経路で流入・回遊しているのか、どのコンテンツが人気で、どこを改善すれば、会員登録者数やロイヤルカスタマーが増えるのかなど、データを分析・活用したサービスをご提供しています。『ヤングマガジン』は良質なコンテンツが豊富なので、検索流入を増加させるためSEO対策にも力を注ぎました。
Glossomの強みは、サービスの開発からデータ分析、マーケティング戦略、グロースまで、デジタルの知見と経験をもとに、クライアントと併走させていただくこと。事業はサービスを構築して終了ではなく、サービスをリリースしてからが始まりです。僕たちにはデジタル事業を運営するノウハウも、データを活用して多数の事業を成長させてきた実績もある。これらを活かしクライアントの事業成長に貢献できることが、いわゆる開発会社さんやコンサル会社さんとの違いでもあるのかなと感じています。
形式的に仕事は「クライアントからの受託」となるのですが、「クライアントのパートナー」でありたいという思いが強いんです。受託という言葉には、「言われたことにだけ対応する」という意味合いが含まれますよね。僕らはクライアントの夢を一緒に実現していくことを大切にしているので。
鈴木:
確かに「受託者」と「発注者」の関係になると、どうしてもこちらが言うことに合わせていただくかたちとなってしまいます。ですがGlossomさんは僕らが「A」と言ったことに対しても、「AよりもBがいいですよ」といろいろな提案をしてくれました。さらに「デジタルのことを出版社の人間に話しても分からないよね」と、うやむやにせず、対等なパートナーとして話し合いを重ねてくれましたよね。これらはとてもありがたかったです。

吉本:
僕らがつくったサービスをブラックボックスにしてしまうと、最終的にみなさんの方でハンドリングができなくなってしまいます。デジタルは僕らの専門分野。細かいところまでご理解いただく必要はないと思っているのですが、ハンドルを握っていただくためにも、内容をきちんとご説明することは大切だと考えています。
鈴木:
分かりやすくご説明いただいたおかげで、編集部員のデジタルリテラシーは格段に向上しました。「ヤンマガWeb」がスタートしてから約2年、会員登録者数は右肩上がり、マネタイズも図れるなど、大きな成果を達成しています。今後も「ヤンマガWeb」ともども、よろしくお願いいたします。
互いの専門分野を理解し、目標へ向けて意見を言い合う
村口翔一(以下、村口):
「ヤンマガWeb」を立ち上げ、成長させていく過程で、もっとも大変だったことをお聞かせください。
矢野雄一郎
氏(以下、矢野):
大前提として、ヤングマガジン編集部は漫画やグラビアのスペシャリスト集団、Glossomさんはデジタルのスペシャリスト集団ですよね。しかし「ヤンマガWeb」を立ち上げる以前、お互いがお互いの専門分野における知識が乏しいという状況にありました。そのため議論をしていても話が噛み合わないことが発生し、足りない知識をどう補完していくかが大変だったなと記憶しています。
村口:
確かに、出版業界とIT業界と業界もまったく違いますから、最初の頃はズレが大きかったなと僕自身も感じています。矢野さんはこの問題をどのようにして乗り越えましたか?
矢野:
共通の目標を設定し、そこに向かっていくため、視点を合わせることが大切だと考えました。お互いの専門分野に興味をもち、不明点は遠慮せずに聞く。そしてそれを分かりやすく説明することで、ズレが解消していったのかなと。
池内汀(以下、池内):
追加開発を行い、明確な目標数値に向けて取り組みを始めた1年くらい前が、転換期になったなと感じています。ヤングマガジン編集部さんとGlossomとのズレが埋まってきたことはもちろん、トライアンドエラーを繰り返し、データを活用しながら上手くPDCAが回せるようになってきたのもこの頃でしたよね。

矢野:
そうでしたね。たとえば「会員獲得率を上げよう」という目標を設定し、実際に数字が上がるとすごく嬉しいんですよ。同時に「なぜ数字が上がったのか」と理由が知りたくなり、「『ヤングマガジン』の漫画の映画化作品が、公開されたタイミングだった」など背景が見えてくる。目標を決めることで、お互いが意見を言いやすい環境にもなりました。これはPDCAを回すうえで、一番大事なことだったなと感じています。
池内:
私たちからご提案した施策も、すぐに実行してくださりますよね。以前「Twitterの編集部の公式アカウントで、漫画を1話分無料公開するのはいかがですか?」とご提案したときも、公開作品や公開日までスピーディに決められていましたし。データを見ながら施策に移す行動力とスピード感、こちらとしても嬉しい限りです。
矢野:
幾度となく成功体験を積んでいますし、Glossomさんとは信頼関係が構築できていますから。とても丁寧に分析してくださるので、その結果を信じ、ご提案はすべて受け入れる心構えでいます。

村口:
ありがとうございます。僕らとしても「ヤンマガWeb」データ分析の数値を見るのが、いつも楽しいんですよ。
オリジナリティあるサービスを目指して
村口:
次のステップへ向けてGlossomに期待することはありますか?
矢野:
「ヤンマガWeb」はまだまだ成長途中。これまでは他の漫画サイトなどのいい部分を取り入れるかたちでやってきましたが、今後は「ヤンマガWeb」にしかできないサービスを生み出していきたいと考えています。もちろん、Glossomさんと一緒に。
村口・池内:
ありがとうございます。がんばります!
